診療案内

※後半部分には臓器等の写真があります。苦手な方はご注意ください。

診療対象動物

イヌ ネコ

診療内容

一般診療

予防

犬ワクチンやフィラリア症の予防薬等の普及により、本邦において飼育されるイヌ・ネコの寿命は飛躍的に伸びました。
大切な家族のために、大切な時間のために病気の予防はしっかりしておきましょう。

  • 狂犬病ワクチン
    狂犬病予防法の制定によりイヌへのワクチンの接種が義務付けられ、1957年以降、国内での狂犬病の発生がないほどに、その抑制に成功しています。
    (海外渡航者が帰国後に狂犬病を発症してしまった例はあります)
    予防接種の有用性・重要性を示しています。
  • 混合ワクチン
    狂犬病ワクチンの接種は主に公衆衛生上のものですが、イヌ・ネコの健康のためには、こちらも欠かすことができません。
    子どもやお年寄りはどうしても感染症への抵抗力が弱くなってしまいますが、それは動物においても一緒です。
  • フィラリア
    イヌ(まれにネコ)が感染する寄生虫症です。
    多くのイヌを若くして死亡させていた怖い病気ですが、有効な薬の登場により予防が可能となっています。
    ただし毎年の予防を欠けば、温暖な地域ですので感染リスクはかなり高くなってしまいます。
  • ノミ・マダニ
    ノミ、マダニは吸血による直接的な害(かゆみ、だ液に対するアレルギーなど)だけにとどまらず、さなだ虫の一種やマダニ媒介感染症をもばらまいてしまいます。
    内服薬や外用薬でこれらを防ぐことができます。
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健康診断

みなさんも毎年の健診を受けられるかと思いますが、人間よりはるかに早く成長し、寿命を終える動物においても、その重要性は高いものとなります。
また体調の変化を知るには、1回の検査だけでなく以前のデータとの比較も大事になってきます。
定期的な健康診断をおすすめします。

不妊手術

去勢・避妊について

不妊を目的とした手術のうち、オスに対して行うものを去勢、メスに対しては避妊と呼び、生後半年前後を目安に行っています。幼いうちに実施することで性格が穏やかになる、おしっこをまき散らす行動が減る、将来の病気の発生が抑えられる、などのメリットがあります。手術は考えているけれど一回は仔を産ませたいという方も多いですが、産まれた複数の仔を飼育するのか、譲渡するのかしっかり決めてから分娩に臨む必要があります。ネコは不妊手術をしないと発情時の逃走、ケンカ、夜中も鳴き続けるなど、飼育上の制約が大きくなってしまうためほとんどの方が手術を選択されます。

病気の予防に関しては特に大きなメリットがあります。第一に精巣・卵巣があることで同部位が腫瘍化してしまうことがあります。写真1はイヌの精巣に発生したセルトリ細胞腫の例です。左が正常な精巣、右が腫瘍化した精巣です。特に生後しばらくたっても精巣が陰嚢内に下降して来ず、お腹の中に留まっている例(潜在精巣)では腫瘍化のリスクは非常に高くなります。写真2はイヌの卵巣に発生した顆粒膜細胞腫です。本例では生理の異常により発見されましたが、超音波検査で偶発的に見つかることもあります。

【写真1】セルトリ細胞腫

【写真1】
セルトリ細胞腫

【写真2】顆粒膜細胞腫

【写真2】
顆粒膜細胞腫

また性腺はホルモンを分泌し、そのホルモンが病気の発生に深く関係します。オスの場合は前立腺肥大、肛門周囲腺腫、会陰ヘルニアなど、メスでは乳腺腫瘍、 子宮蓄膿症などです。

【写真3】肛門周囲腺腫

【写真3】
肛門周囲腺腫

写真3はオスのミニチュアダックスフントに発生した肛門周囲腺腫です。排便痛を訴えており、まずは去勢手術を実施しました。写真4は同じくお尻のデキモノということで来院された症例ですが、実はこれは直腸脱です。直腸の一部壊死と穿孔を起こしていたため、直腸全層プルスルー術を行いました(写真5)。写真6はメスのダックスフントの乳腺癌です。手術の時点で腋のリンパ節への転移も認められる非常に悪性度の高い乳腺腫瘍で、肺転移による呼吸不全で亡くなってしまいました。
不妊手術はこれらをかなりの確率で防ぐことができます。

【写真4】直腸脱

【写真4】
直腸脱

【写真5】術後

【写真5】
術後

【写真6】乳腺癌

【写真6】
乳腺癌

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歯科診療

歯のトラブル

ものを食べれば歯に汚れ(歯垢)が付きますが、歯みがきをすることがない動物はどうしても歯垢が貯まりがちです。そこによだれ(唾液)に含まれるカルシウムが反応すると、歯みがきしても落とすことのできない歯石になってしまいます。歯石は歯肉や歯槽骨を痛める原因になるばかりでなく、細菌の巣になって内臓にも影響を及ぼしてきます。歯石取りの直後には普段より多くの細菌が血液に混ざるため、ヒトでは歯石取りをしたあと3日間は献血を受け付けてもらえないそうです。

【写真1】

【写真1】

写真1は左目の下にデキモノがあるとの事で来院されたジャックラッセルテリアです。こういう症例の奥歯(ここでは第4前臼歯)を見てみると歯石がこびりついていることがあります(写真2)。というのも、頬骨腺という唾液を作る組織の出口がちょうどこの部位にあるため、このあたりの歯垢はカルシウムと反応しやすいのです。超音波スケーラーという機械を使って歯石をきれいに除去すると、歯に穴が開いているのが確認されました(写真3)。歯の中心部には神経が通う穴が開いているわけですが、固いオモチャやケージ等を噛んで歯が欠けてしまうとそれが露出してしまうことがあります(露髄といいます)。重度の歯石や露髄は、このような目の下の腫れを伴うような歯根尖膿瘍の原因となってしまうのです。

【写真2】

【写真2】

【写真3】

【写真3】

ネコのウイルス性疾患による重度の歯肉炎で痛くてエサが食べられない子では、歯をすべて抜いてしまう処置をすることで症状が緩和されることがあります。ヒトは前歯で噛み切り臼歯ですり潰して味わって食べるわけですが、イヌやネコの歯は切歯も臼歯も噛み切るように出来ていて、食事はある程度の大きさに切ってから飲み込んでいるのです。そのためフードを与えられている動物では抜歯後も栄養の摂取に不都合はありませんが、食事の楽しさについては聞いてみないとわかりません。

小さい頃から歯みがきを我慢する習慣をつけておくと歯石が付きにくくなるのですが、どうしても嫌がる子は多いですし、大きくなってから急に始めても受け入れてくれないかもしれません。ブラシや布で直接歯を掃除することが出来なくても、タオルなどのオモチャを噛ませて遊ばせることで、ある程度歯垢はとれるかと思います。歯石になってしまうとご家庭でとることは困難となりますので、トラブルになる前の対処をお勧めします。

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腫瘍科診療

腫瘍について

イヌやネコの寿命が延びたことは喜ばしいのですが、同時にがんの問題にも悩まされることが多くなっています。デキモノを発見して『がんができたのですが』とご相談にいらっしゃれることがあります。そのまま手術して幸運にも再発が見られなかった場合、がんを克服した武勇伝(?)となって喧伝されてしまうこともあるのですが、これでは大きな誤解を招いてしまいます。

まず、デキモノには腫瘍とそうでないものがあります。細菌に感染して膿がたまってしまってもデキモノに見えますよね。また腫瘍も良性のものと悪性のものとに分けられます。転移の可能性のあるものが悪性のがん(癌腫、肉腫)です。デキモノが発見されたら、まずは細胞を見て良性病変なのか、がんが疑われるのかを判断します。それによって今後の対応が大きく変わってくるからです。場合によっては組織を採取して病理医の判断を仰ぎます。がんの可能性がある場合はレントゲン検査(写真1)や超音波検査(写真2)を行い、体の他の部位にもデキモノがないかどうかを確認します。以上の過程から、しばらく様子を見ていいものなのか、すぐに治療に入った方がいいのか、あるいはすでに全身に転移しており積極的な治療は勧められないのか、を見極める必要があります。治療を希望される場合には、血液検査により手術や抗がん剤に耐えるだけの体力があるかどうかもチェックする必要があるでしょう。なお切除したデキモノは病理検査に供します。デキモノの正体が判明するのはもちろん、再発のリスク、転移の可能性の高さなど、さまざまな情報が得られるからです。報告書が届き次第ご説明し、お渡しします。

【写真1】レントゲン検査

【写真1】
レントゲン検査

【写真2】超音波検査

【写真2】
超音波検査

良性腫瘍

【写真1】

【写真3】

写真3はごく若いミニチュアダックスフントに発生した皮膚組織球腫です。年齢やデキモノの見た目からある程度は診断がつくこともありますが、基本的には細胞を見る必要があります。
写真4はラブラドール・レトリーバーの脇の脂肪腫です。発生部位と大きさによってはしばらく様子見をしておいても構わないのですが、本例では大きくなりすぎて歩行の妨げになる可能性が出たために手術に踏み切りました。良性腫瘍は肉眼でそれとわかる膜に覆われていることがあり、全体をうまく切除することで同部位での再発を防ぐことができます(写真5)。

腫瘍写真4

【写真4】

腫瘍写真5

【写真5】

悪性腫瘍

写真6はビーグルの肝臓の血管肉腫です。食欲不振で来院され、検査により肝臓に単一のデキモノが発見されました。血管のがんは非常に転移しやすく、たとえ術中に転移巣が認められなくても(写真7)、目に見えない小さな転移は起こしているものとして対応します。また抗がん剤の効果も限定的で、短い期間で亡くなってしまうことも多い非常に怖いがんです。しかしながら本例では術後に腹部の圧迫がなくなり、ビーグルらしい旺盛な食欲が戻ったことで飼い主さんは喜ばれていました。また大きなデキモノの破裂による急な出血を予防することもできました。

腫瘍写真6

【写真6】

腫瘍写真7

【写真7】

以上のように、がんにはそれぞれ性質があり、悪性度があり、進行度があります。また動物の体力、ご家族の選択、それぞれに応じた対処法が求められ、2つとして同じ例はいません。適正な検査を行い、正しい理解があれは、その子にあった最適な治療法がきっと見つけられるはずです。